「いざ親を病院に連れて行こう」と決めたものの、次に手が止まる人はとても多いです。検索しても「脳神経内科」「脳神経外科」「神経内科」「精神科」「もの忘れ外来」と言葉が並び、結局どこに電話すればいいのか分からなくなる。長くお世話になっている、かかりつけの内科の先生に相談していいものか、それとも最初から専門の外来を探すべきか──。
その迷い、とても自然です。むしろ、ここでつまずく人のほうが多いくらいです。
私は認知症病棟で看護に携わり、義理の親を”もの忘れ”の段階から受診・在宅・看取りまで、家族として支えてきました。その経験から振り返って、いちばん悔やまれたのは「受診を決めたのに、どこに行けばいいか分からず、結局また数週間そのままにしてしまった時間」でした。せっかく心が動いたのに、入り口で迷って熱が冷めてしまう。これが、いちばんもったいないのです。
今日は、その「最初の一歩をどこに踏み出すか」を、迷わず決められるように整理します。
なぜ「どこに相談するか」でこんなに迷うのか
理由はシンプルで、認知症をみる科がひとつに決まっていないからです。脳神経内科、精神科、神経内科、もの忘れ外来、認知症疾患医療センター──どれも正解になり得ます。専門の人にはあたりまえでも、初めての家族には「同じものを違う名前で呼んでいるのか、別物なのか」すら分かりません。
しかも、もうひとつ事情があります。多くの親世代は、新しい病院や知らない先生をとても警戒します。「知らない大きな病院でいきなり検査」と聞くだけで身構える。一方で、長年通っているかかりつけの先生になら、案外すっと相談に応じてくれることがある。「正しい科」だけで考えると、つまずくのはこの”親の心理”の部分です。
だからこの記事では、「医学的に正しい入り口」と「親が動いてくれる入り口」の両方から考えます。
入り口は大きく2つ ── かかりつけ医/専門の外来
ざっくり、こう整理すると分かりやすいです。
| かかりつけ医(いつもの内科など) | もの忘れ外来・専門の科 | |
|---|---|---|
| 強み | 親が警戒しにくい・予約しやすい・普段の体調も知っている | 認知症の検査・診断に慣れている |
| 役割 | 入り口・橋渡し役。必要なら専門医へ紹介してくれる | 詳しい検査・診断・その後の方針 |
| 向いている人 | 「いきなり専門病院はハードルが高い」「親が嫌がりそう」 | 「すでに生活に支障が出ている」「早く詳しく診てほしい」 |
ポイントは、この2つは「どちらか一方」ではなく、つながっているということです。かかりつけ医はゴールではなく、専門医への橋渡しをしてくれる入り口になります。「まずかかりつけ→必要なら紹介してもらって専門外来へ」という流れは、ごく一般的なルートです。
「もの忘れ外来」というのは、認知症やその前段階を専門にみる外来の呼び名です。置いている病院もあれば、ない病院もあります。近くにあるかどうかは、後述の地域包括支援センターでも教えてもらえます。
あなたの親は、どちらの入り口が近い?
どちらから始めるか、次のように考えると決めやすいです。
まず「かかりつけ医」から始めるのが向いている場合
- 親が新しい病院や「認知症」という言葉を強く警戒している
- もの忘れは気になるが、まだ生活が大きくは崩れていない
- 何科に行けばいいか自分でも判断がつかない(迷っている)
- まずは相談だけ、身近なところから始めたい
→ この場合、いつもの先生に「最近もの忘れが気になって」と切り出すのが、いちばん摩擦が少ないです。先生が必要と判断すれば、適切な専門医を紹介してくれます。「健康診断のついでに」と添えると、親も身構えにくくなります。
最初から「専門の外来」を検討したほうがいい場合
- すでに生活に支障が出ている(火の不始末、薬の飲み忘れ、お金の管理が危うい、道に迷う)
- 急に様子が変わった、進みが早いと感じる
- かかりつけ医がいない、または認知症の相談は気が進まない様子だった
- 家族として「これは早く詳しく診てもらいたい」と強く感じる
→ この場合は、もの忘れ外来や脳神経内科などを探して直接予約してかまいません。どこがいいか分からなければ、次の窓口で相談できます。
あなたの親は、どちらに近いですか?
ただし注意:これは「どちらが正しいか」ではなく「どちらから始めると動きやすいか」の目安です。最終的にどの科・どの検査が必要かを判断するのは、医療機関の医師です。迷ったら「まずかかりつけ医に相談」で、まず間違いはありません。
「どこに相談するか」自体を相談できる窓口がある
実は、いちばん肩の力が抜ける選択肢がこれです。病院を決める前に、無料で相談できる公的な窓口があります。それが地域包括支援センターです。
お住まいの市区町村ごとに設置されていて、介護や認知症の困りごとを、診断前・受診前の段階から相談できます。「親のもの忘れが気になるけれど、どこに行けばいいか分からない」という、まさに今のあなたの状態でOKです。
- 近くのもの忘れ外来や認知症に詳しい病院を教えてもらえる
- 受診を嫌がる親への接し方を一緒に考えてもらえる
- 費用はかかりません
「病院選びでつまずいて止まってしまう」を防ぐ、いちばん確実な一歩です。「地域包括支援センター + お住まいの地名」で検索すると、最寄りの窓口が見つかります。
受診を決めても、次に来るのは「親が嫌がる」
入り口が決まっても、現実にはもうひとつ壁があります。親本人が「行きたくない」と言うケースが、とても多いのです。
「どこも悪くない」「ぼけ扱いするな」「物忘れ外来なんて自分には関係ない」──こうした反応は、決して珍しくありません。むしろ”あるある”です。だからこそ、連れて行く側に「言い方の工夫」が必要になります。「認知症」という言葉を出さずに受診につなげる声かけには、いくつかコツがあります。
まずこの30秒 ── メモを1枚だけ用意する
入り口をどこにするか決めたら、受診の前にひとつだけ準備しておくと、当日がぐっと楽になります。スマホのメモに、気づいたことを日付つきで残しておくことです。
例:「6/9 朝 同じ話を3回」「6/10 昼 鍋を焦がした」「6/12 通帳が見つからないと大騒ぎ」
かかりつけ医にせよ専門外来にせよ、診察時間は限られています。その場で「えっと、いつ頃からだったか…」と思い出そうとしても、うまく伝わりません。「いつ・どんなことが・どのくらいの頻度で」を書いたメモが1枚あるだけで、先生の見立ては大きく変わります。「なんとなく心配」を「事実」に変える。これが、入り口を確実にくぐるための準備です。
受診の入り口と一緒に、整理しておきたいこと
病院を決めるこの段階は、実はお金や制度の備えを考え始める入り口でもあります。受診して診断がついてから慌てる人が多いのですが、口座や契約まわりの備えは「本人の判断力があるうち」にしかできないことが多いからです。
受診先の選び方から、診断の前後でやっておきたいこと、お金・制度の優先順位まで、私の実体験からまとめた無料PDF 「親が『認知症かも?』と思ったときにすることリスト」 を用意しました。「次に何をすればいいか」を、迷わず順番に進められます。
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あなただけじゃありません
「受診を決めたのに、どこに行けばいいか分からない」で止まってしまう人は、本当にたくさんいます。完璧な病院選びを最初から目指さなくて大丈夫。迷ったら、まずはいつもの先生か、地域包括支援センターへ。その電話一本から、ちゃんと前に進めます。
出典
- 受診先(もの忘れ外来・脳神経内科など何科に行くか):LIFULL介護 https://kaigo.homes.co.jp/manual/dementia/basic/department/
- 相談窓口(地域包括支援センター):厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000076236_00003.html
- 軽度認知障害(MCI)・認知症の基礎:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/kibou_00007.html


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