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診察室で、医師から「アルツハイマー型認知症ですね」と告げられた瞬間。頭では「やっぱりか」と思っていたのに、いざ言葉にされると、何も考えられなくなる。となりの親の顔を見られない。帰りの車のなかで、何を話していいか分からなかった──。
その固まってしまう感じ、とても自然です。
私は認知症病棟で看護に携わり、義理の親を”もの忘れ”の段階から受診・在宅・看取りまで、家族として支えてきました。その両面から振り返ると、告知の日にいちばん多い後悔は──「ちゃんと受け止めなきゃと気を張りすぎて、自分の動揺にフタをしてしまった時間」でした。
落ち着いて次の段取りを考えなきゃ、と焦るほど、足元がふわふわする。今日はその告知直後の数日を、どう乗り切ればいいのか。「すぐやること」と「あとでいいこと」を、順番に整理してお伝えします。
なぜ「告知の日」がいちばんしんどいのか
受診を決めるまでも長い迷いがありますが、実は告知の直後がいちばん心が乱れる家族が多いです。理由はシンプルで、それまでの「グレーゾーンの不安」が、「確定した現実」に変わるからです。
「線引きが分からなくて様子を見ていた」状態には、まだ逃げ場がありました。でも診断名がつくと、逃げ場がなくなったように感じます。「これから親はどうなるんだろう」「自分の生活は」「お金は」──いろんな不安が一気に押し寄せて、頭がパンクします。
ここで多くの家族がやってしまうのが、「その日のうちに全部決めようとする」こと。施設は、お金は、仕事は、と一晩で答えを出そうとして、眠れなくなる。でも、ほとんどのことは今日決めなくて大丈夫です。むしろ、動揺したまま大きな決断をしないほうがいい。
「今日やること」と「あとでいいこと」を分ける
告知後にやることは、実は緊急度がはっきり分かれます。ごちゃ混ぜにすると、しなくていい心配で潰れます。
- 今日〜数日:処方・次回受診・お薬手帳の確認/本人の前での言葉づかいを少し気をつける
- 数週間以内:地域包括支援センターへ相談(介護保険の入口)/お金や制度の情報を集め始める
- あわてなくていい:施設、相続、仕事の調整など(情報を集めてから、家族で話す)
たとえば「明日にも施設を探さなきゃ」と思いがちですが、診断がついた=すぐ施設、ではありません。多くの場合、まずは在宅で、必要なサービスを少しずつ足していく段階から始まります。
告知後すぐに動くこと vs もう少し置いていいこと(分岐点)
「何から手をつければ」と固まったら、この2つで仕分けてみてください。
すぐ動いたほうがいいこと(数日〜数週間)
- 処方された薬の種類・飲み方を確認し、お薬手帳にまとめる
- 次回の受診予約と、当日の付き添いの段取り
- 地域包括支援センターに電話して「親が認知症の診断を受けた」と伝え、相談予約を取る(介護保険・要介護認定の入口)
- 火の元・運転・お金の管理など、生活の安全で気になる点をメモしておく
もう少し置いて、情報を集めてからでいいこと
- 施設の見学や入居の検討(在宅で困りごとが出てから動いても遅くない場合が多い)
- 相続・財産の本格的な手続き(ただし「親の判断力があるうちに」の準備だけは早めに着手)
- 仕事を辞める・働き方を変えるなどの大きな決断(介護離職は急がない。制度で支えられる部分が多い)
あなたの今の状況は、どちらに近いですか? もし全部「すぐやらなきゃ」に見えているなら、それは焦りのサインかもしれません。まずは上の段の数項目だけに絞って大丈夫です。
ただし注意:本人の判断力が関わる手続き(口座・代理人・家族信託など)だけは、進んでしまうと選べなくなることがあります。これは「あとで」ではなく、情報収集を早めに始めておきたい領域です(最終的な判断は専門家へ)。
揺れているのは、あなた自身かもしれません
ここまで「親のためにやること」を並べてきましたが、告知直後にいちばんケアが必要なのは、実は支える側のあなたです。
「しっかりしなきゃ」と気を張って、自分の不安を後回しにする家族は本当に多いです。私自身もそうでした。でも、支える人が倒れてしまっては元も子もありません。眠れない、涙が止まらない、何も手につかない──それは弱さではなく、大きな現実を受け止めようとしている、自然な反応です。
身近に話せる人がいないとき、あるいは「家族には心配をかけたくない」ときに、気持ちを整理する相談先を持っておくと、ぐっと楽になります。オンラインで、自宅から、専門のカウンセラーに不安を話せるサービスもあります。診断のショック、これからへの恐怖、家族のなかでの孤立感──そういう「答えの出ない気持ち」を、まず吐き出す場所として使う人が増えています。
ただし注意:カウンセリングは医療行為(診断や治療)ではありません。本人の症状そのものの治療は主治医に、気持ちのケアは相談先に、と役割を分けて考えると整理しやすいです。眠れない・食べられないが続くなら、あなた自身が早めに医療機関へ。
受診はしたけれど、親が薬や次の通院を嫌がるとき
告知のあと、「もう病院は行かない」「薬なんていらない」と本人が言い出すケースも少なくありません。診断を受け入れること自体が、本人にとってもつらいからです。
無理に説得するより、言葉の選び方を少し変えるだけで通院が続くことがあります。「認知症の検査」ではなく「いつもの健康チェック」と言い換えるなど、具体的な声かけの工夫があります。
👉 親が受診・通院を嫌がるときの声かけ方(認知症と言わない工夫)
今日の30秒:告知の内容を、メモに残す
診察室では気が動転して、医師の説明が半分も頭に入っていないものです。だからこそ、帰ったらすぐ、覚えている範囲でスマホのメモに書き留めてください。
例:「6/10 診断=アルツハイマー型/薬○○を1日1回/次回受診7月上旬/先生『進行はゆるやか』と」
なぜなら、この記録が次の受診や、地域包括支援センターへの相談、要介護認定の申請のときに、何度も役に立つからです。「言われた気がするけど思い出せない」を防ぐ、いちばん簡単な備えです。家族のあいだで情報を共有するときにも、メモが一つあるだけで話が早くなります。
次に効いてくるのは「お金と制度」の段取り
告知の動揺が少し落ち着いたら、次に家族を悩ませるのは、ほぼ決まってお金と制度のことです。介護保険の申請、医療費、そして親の判断力があるうちにしかできない財産の備え──このあたりは、知っているか知らないかで、後の負担が大きく変わります。
私自身が「やっておいてよかったこと・やっておけばよかったこと」を実体験からまとめた無料PDF 「親が『認知症かも?』と思ったときにすることリスト」 を用意しました。受診後にすることを、お金・制度・相続まで含めて、優先順位をつけて整理できます。
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告知の日に全部抱え込まなくて大丈夫。一つずつ、順番に進めれば間に合います。
あなただけじゃありません
診断を告げられたあとの、あの何とも言えない数日を過ごしている家族は、本当にたくさんいます。完璧に受け止めようとしなくて大丈夫。今日はメモ一行と、深呼吸ひとつから。これからのことは、明日からゆっくり考えていきましょう。
出典
- 認知症の診断後の相談先(地域包括支援センター):厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000076236_00003.html
- 認知症と診断されたら(本人・家族の支援):厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
- 介護保険・要介護認定の流れ:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/gaiyo/index.html
- 認知症の人と家族への支援(受診・相談):LIFULL介護 https://kaigo.homes.co.jp/manual/dementia/

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