「家族信託と成年後見、どう違うの?」——義理の親のことで動き始めたとき、私もこの言葉の壁にぶつかりました。認知症病棟での看護でも介護の現場でも教わらなかった、お金と法律のしくみ。調べるほど専門用語が出てきて、正直、何度も心が折れそうになりました。
でも、ざっくりとした地図さえ持っておけば大丈夫。この記事では、認知症に備えるための代表的な3つの仕組み——代理人カード/家族信託/成年後見——を、「どんな家族に向いているか」という目線でやさしく並べて比べます。親のお金が凍結される「口座凍結」を防ぐ、具体的な手段の選び方編です。
大前提 ― 「判断能力があるうちか」で選べる道が変わる
いちばん大事なルールを先に。認知症などで親の判断能力が下がると、本人名義の財産は基本的に動かせなくなります。そして、前もって備える仕組み(家族信託・任意後見・代理人カード)は、親に判断能力があるうちにしか使えません。判断能力が下がったあとに残る道は、原則として法定後見だけ。だからこそ「元気な今」が、選べる時間なのです。背景として、厚生労働省の推計では2022年時点で65歳以上の認知症の人は約443万人、その予備群(MCI)も約559万人とされ、決して他人事ではありません。
3つの仕組みを、ざっくり比べる
① 代理人カード・代理人指名(いちばん手軽)
銀行が用意している仕組みで、家族が本人に代わって預金の入出金などをできるようにするものです。手続きが比較的かんたんな反面、できることの範囲や上限は銀行ごとに異なり、不動産の管理や大きな資産対策には向きません。「当面の生活費の引き出しだけでも家族でできるように」という最初の一手として有効です。
② 家族信託(柔軟だけど設計が要る)
元気なうちに「自分の財産の管理を信頼する家族に託す」契約を結んでおく方法です。不動産も含めて柔軟に設計でき、本人の希望を細かく反映できるのが強み。一方で、契約内容の設計には専門知識が必要で、はじめに専門家への相談・費用がかかります。「実家や資産を、親の意向に沿って家族で管理したい」家族に向いています。
③ 成年後見(判断能力が下がった後の主な道)
判断能力が不十分になった人を法的に支える制度です。あらかじめ誰に任せるか決めておく「任意後見」と、判断能力が下がった後に家庭裁判所が後見人を選ぶ「法定後見」があります。本人の財産を守る力は強い一方、手続きや費用、家庭裁判所の関与といった負担も大きめ。すでに判断が難しくなっている場合の“正式ルート”です。
結局、我が家はどれ? ― 選び方の目安
- とにかく当面の生活費を家族で動かせるように → まず代理人カードを検討
- 実家や資産を、親の希望に沿って柔軟に管理したい → 家族信託を専門家と設計
- 将来に備えて、信頼できる人を今のうちに決めておきたい → 任意後見
- すでに判断能力が下がっていて、口座が凍結されそう → 法定後見の検討
どれも一長一短で、家族構成・資産・親の希望によって最適解は変わります。ネットの情報だけで決めず、一度プロに「我が家の場合」を聞くのが遠回りに見えていちばんの近道でした。
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今日できる、たった30秒の一歩
「代理人カード」という言葉だけ覚えて、次に親の銀行に行くときに窓口で聞いてみる。
いちばん手軽な一手から。それだけでも「お金が動かせなくなる」最悪のシナリオに、ひとつ保険をかけられます。
制度の前に、お金全体の地図を持っておくと迷わない
制度選びで迷う背景には、たいてい「そもそも親と自分のお金が、これからどう推移するのか分からない」という不安があります。介護費・医療費・年金…。全体像をプロと一度“見える化”しておくと、どの制度にどれだけお金をかけるべきかの判断もぐっと楽になります。
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おわりに ― 「知っている」だけで、選べる側になれる
家族信託も成年後見も、名前だけ聞くと身構えてしまいます。でも、「判断能力があるうちにしか選べない道がある」——この一点さえ押さえておけば、あなたはもう、慌てて一つしかない道を選ぶ側ではなく、家族に合った道を選べる側です。看護と介護の現場で「もっと早く知っていれば」を何度も見てきたからこそ、伝えたいことでした。
制度の具体的な判断は、必ず専門家にご相談を。あわせて「口座凍結」への備え(総まとめ)と親の家の相続登記も読むと、生前から相続後まで、お金の備えがひと続きで見えてきます。
出典:厚生労働省「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」 https://www.mhlw.go.jp/content/001279920.pdf /成年後見制度の詳細は法務省・各家庭裁判所の公式情報をご確認ください。


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